飛行集団司令部令の発令
航空戦力の増強に伴い、地域を区分して司令部を置き、航空部隊の統一指揮を計るため
昭和13年(1938年)6月10日飛行集団司令部令が制定された。
飛行集団司令部令の概要
飛行集団長は、陸軍中将を持って親補し天皇に直隷、部下航空部隊を統率して、部下航空部隊の練成に付きその責に任じ、その管理に係わる各部隊の動員計画を掌り、その他の部下航空部隊の動員計画を監督する。
疫疾其の他非常の場合、急遽部下航空部隊を移動したときは直ちに陸軍大臣、参謀総長に報告し、関係師団長に通報すること。
飛行集団長は軍政、人事及び航空兵科専門教育に関しては陸軍大臣、動員計画及び作戦計画に関しては参謀総長、教育(航空兵科専門教育を除く)に関しては教育総監の区処をうける。
飛行集団長は、臨時部下航空部隊を教育期の終わりに検閲し、検閲の実況及び意見を奏上し。かつ陸軍大臣、参謀総長、教育総監に報告すること。
飛行集団司令部に参謀部、副官部、兵器部、経理部、軍医部、飛行班を置き参謀部と副官部を併せて幕僚とした。但し兵器部、経理部、軍医部の組織権限は別に定める。
参謀長は飛行集団長を補佐し、飛行集団長に対して事務整理の実に任じ幕僚の各将校は、参謀長の指揮を受け各担任の事務を掌る。
飛行班は参謀長の命を受け飛行機を以ってする指揮、連絡等の業務に従事、准士官、下士官及び判任文官は上官の命を受け技術又は事務に従事する。
各部長より飛行集団長に具申する事項については、予め参謀総長の承認を受けること。
飛行集団司令部令は、司令部の任務、組織並びに管理運営の基本を定めたもので、司令部の編成及び編制,編制改編、移駐、飛行集団の航空部隊の編成(編合と云う)等については別に、陸軍航空部隊の編制、陸軍航空部隊の編成要領等の軍令により規定された。
昭和13年5月23日付陸甲第27号、陸軍航空部隊編成要領の定めに基き、第1、第2飛行集団司令部が編成され、その後昭和14年6月、陸甲第20号、陸軍航空部隊編成要領の規定に基き北支那方面軍に第3飛行集団司令部が編成された。
また在満州航空兵備増強の目的で軍令(番号不詳)により昭和17年第4飛行集団司令部が、昭和15年7月17日付陸甲第26号、陸軍航空部隊編成要領の規定により第5飛行集団司令部が編成された。
第1飛行集団司令部
昭和13年(1938年)6月10日 留守航空兵団司令部によって司令部を東京に編成、留守航空兵団司令部の任務を引き継ぎ内地陸軍航空部隊を指揮統率した。(当時内地とは、台湾、朝鮮を含む。)隷下の飛行聯隊はそれぞれ動員、派遣され支那(中国)大陸において転戦中であり、内地の各飛行聯隊は留守訓練部隊となっていた。(第1、第9聯隊を除く)
この飛行聯隊も8月末までに飛行戦隊と改められ、留守航空兵団司令部によって準備されてきた5個航空教育隊および飛行第65戦隊の編成も完結して次のように編成が整った。
飛行第1戦隊 (戦闘)(各務原)
飛行第2戦隊 (偵察)(各務原)
飛行第3戦隊 (軽曝)(八日市)
飛行第4戦隊 (戦闘、軽曝)(太刀洗)
飛行第5戦隊 (偵察、戦闘)(立川) 昭和13年11月に(柏)に移転
飛行第7戦隊 (重爆)(浜松)
飛行第13戦隊(戦闘)(加古川)
第2飛行団(司令部 会寧)
飛行第6戦隊 (軽曝)(平壌)
飛行第9戦隊 (戦闘)(会寧)
飛行第65戦隊 (軽曝)(咸興)
第2航空教育隊 (平壌)
第4飛行団(司令部 屏東)
飛行第8戦隊 (軽曝)(屏東)
飛行第14戦隊(重爆)(嘉義)
第3航空教育隊 (嘉義) 昭和19年松山に移転
第1航空教育隊 (各務原)
第4航空教育隊 (立川) 昭和15年柏に移転
第5航空教育隊 (太刀洗)
軍令の定めにより、昭和13年12月15日 第2飛行団は、第2飛行集団司令部隷下となり、昭和14年6月、飛行第1戦隊は満州に転出、同年8月1日 司令部は岐阜加納城本丸跡に移る。
なお 第1飛行集団司令部は、国内航空部隊を統括していた関係で、前線の兵団や各飛行集団への人員並びに飛行部隊の補給司令部としての任務も果たしていた。
第1飛行集団司令部は、昭和17年4月15日 第51教育飛行師団司令部に、昭和20年2月20日 第51航空師団司令部と編制改編をする。司令部は引き続き加納城本丸跡に置かれた。
第2飛行集団司令部
満州には、昭和10年(1935年)12月2日関東軍指揮下に関東軍飛行集団司令部が編成されていたが、昭和12年(1937年)8月5日第2飛行集団司令部と改編された。
昭和13年6月10日今回の飛行集団司令部令の施行に伴い、この軍令適用の第2飛行集団司令部と改編する。
牡丹江に司令部を置き、次の航空部隊を指揮統率した。
第7飛行団(司令部 新京)
飛行第12戦隊(重爆)
飛行第15戦隊(偵察)
第7航空地区司令部
第17、第36飛行場大隊
第7航空教育隊
第8飛行団(司令部 海狼)
飛行第16戦隊(軽爆)
飛行第33戦隊(戦闘)
飛行第58戦隊(重爆)
第8航空地区司令部
第18、第46、第53飛行場大隊
第8航空教育隊
第8野戦航空廠
第9飛行団(司令部 斉斉哈爾)
飛行第10戦隊(偵察)
飛行第59戦隊(戦闘)
飛行第61戦隊(重爆)
第9航空地区司令部
第20、第41、第48飛行場大隊
第9航空教育隊
第9野戦航空廠
第12飛行団(司令部 哈爾濱)
飛行第11戦隊(戦闘)
飛行第24戦隊(戦闘)
第12航空地区司令部
第22、第51飛行場大隊
第12航空教育隊
第12野戦航空厰
航空通信第1聯隊、第2聯隊第7、第8中隊(第1〜第6中隊15年編成)
第1、第2航空情報隊各第1中隊(第2中隊は15年編成)
平壌支厰
第2飛行集団司令部は、昭和14年9月1日支那から満州に移駐した航空兵団に編合する。
昭和17年6月1日第2飛行師団司令部と編制改編、昭和20年5月23日解散
第3飛行集団司令部
昭和14年(1939年)9月1日 北支那方面軍戦闘序列の中で南京に司令部を編成、航空兵団司令部の任務を引き継ぎ、次の航空部隊を指揮統率した。
独立飛行第16中隊 (偵察)
第1飛行団
独立飛行第10中隊(戦闘)
独立飛行第83中隊(偵察)
飛行第90戦隊(軽曝)
第15、第17、第18航空地区司令部
第91、第92、第96飛行場大隊
第1、第67、第68、第86飛行場中隊
飛行第60戦隊(重爆)
第15航空通信隊
第15航空情報隊
第15野戦航空厰
第2野戦飛行場設定隊
第12師団第1、第2野戦高射砲隊
兵站自動車第1、第13、第64、第65中隊
昭和14年9月1日 航空兵団司令部隷下部隊の過半数を引き継いで、第3飛行集団が編成されたが。この時、第3飛行団は分離して中支那派遣軍戦闘序列に、編成を解かれた第4飛行団に代わって編成された第21独立飛行隊は南支那第21軍戦闘序列に入る。
第3飛行集団司令部は、昭和16年11月6日北支那方面軍から南方軍直轄となり、カンボジアのプノンペンに司令部を移設、昭和17年4月15日改編して第3飛行師団司令部となる。
第3飛行師団司令部は、昭和17年7月10日支那派遣軍戦闘序列に入り再び支那に帰り、昭和19年2月14日第5航空軍司令部となる。
第4飛行集団司令部
昭和17年(1942年)2月20日 航空兵団を強化するため航空兵団隷下に編成され、司令部は斉斉哈爾(黒竜江省)に置き、次の航空部隊を指揮統率した。
第4飛行集団直属部隊
独立飛行第53中隊(偵察)
白城子陸軍飛行学校教導飛行団司令部
飛行第45戦隊(軽曝)
教導飛行第204戦隊(戦闘)
飛行第208戦隊(軽曝)
第9、第10航空地区司令部、
白城子陸軍飛行学校教導航空地区司令部
第20,第38,第47、第51、第69、第79、教導第99、第201、飛行大隊
教導第205、第209飛行場大隊 教導第3飛行場中隊
第9飛行団
飛行第7戦隊 (重爆)
飛行第24戦隊(戦闘)
飛行第61戦隊(重爆)
教導飛行第204戦隊
第14飛行団
飛行第68戦隊(戦闘)
飛行第78戦隊(戦闘)
昭和17年4月15日第4飛行師団司令部となる。
太平洋戦争末期フィリピンに転出、
昭和19年5月12日第4航空軍戦闘序列に編入,地上支援部隊を中心とする編成となり、 飛行場の整備管理を行う。
昭和19年11月23日、第4航空軍命令で飛行部隊が配属され、ルソン島攻撃作戦に参加
昭和20年2月17日 第14方面軍戦闘序列に編入、司令部をエチアゲに移転、戦力の消耗により、主力は地上作戦部隊、輸送部隊と改編する。
同年3月20日司令部をイチアゲ西方サンチャゴに移動、その後6月6日キャンガンへ移動命令が出て、移動中サトニンで終戦、ヒントックで武装解除となる。
第5飛行集団司令部令
昭和15年(1940年)12月2日 航空兵団隷下に編成され、斉斉哈爾に司令部を置き満州の警備にあたり次の航空部隊を指揮統率した。
飛行第10戦隊(偵察)
第9飛行団(司令部 斉斉哈爾)
飛行第24戦隊(戦闘)
飛行第45戦隊(軽曝)
飛行第61戦隊(重爆)
第9航空地区司令部
第20、第47、第51飛行場大隊
第10飛行団(司令部 嫩江)
飛行第31戦隊(軽曝)
飛行第74戦隊(重爆)
飛行第77戦隊(戦闘)
第48飛行場大隊
昭和16年11月6日南方軍戦闘序列に編入、
昭和17年1月8日 ビルマ攻撃の為司令部をタイに転進南方軍直轄となる。
昭和17年4月15日第5飛行師団司令部と改編。ラングーン防衛と輸送船団護衛にあたる。
戦力の消耗により、昭和20年4月メイクーラ陥落直後プノンペンに移動、ここで終戦を迎える。
昭和14年陸軍航空部隊の編制、編成要領,細則の制定
昭和14年6月 陸軍航空部隊編制、同細則並びに陸軍航空部隊編成要領、同細則の原案を奏上する際に説明をされた文書を閲覧することができたので紹介する。(カタカナはひらかなに変換した。)
これにより陸軍航空部隊の今回の編成並びに編制改正部分が解りやすく知る事が出来る。
御 説 明
陸軍航空部隊編制の制定について
内地外地を通する陸軍航空部隊(内地にある官衛学校を除く)の編制の為新に陸軍航空部隊編制を制定し、陸軍航空部隊はその主力を、航空兵団、第一、第二飛行集団に編合す.支那に在る第三飛行集団司令部、その他の部隊の編合は、本編制に於いて確定することなく、戦闘序列を以てこれを定む。
今次陸軍航空部隊編制の制定に於いては、昭和11年上奏せし軍備充実計画に基づき、本年度に於いて新設に着手する諸部隊を之に編合すると共に、在支航空部隊を爾後の作戦に応ずる如く整理改編し、その一部を満州に移駐して之を関東軍司令官の隷下に入らしめ、以て特に在満航空兵備の整備強化を期す。その概要次の如し
その1 陸軍航空部隊総兵力及び編制等
1、現兵力たる 偵察10中隊、戦闘23中隊、軽爆20中隊、重爆17中隊、超重1中隊 計71中隊及び練習部7個に対し、今次の改編に於いては、偵察18中隊、戦闘28中隊、軽爆26中隊、重爆19中隊 計91中隊及び練習部10個と為し、総兵力に於いて20中隊と練習部3個を増加す
2、昭和12年戦隊編制創設以来の実績並今次事変に於ける経験に基き、各戦隊に兵若干名を増加するほか、各部隊の編制に夫々所要の改正を加ふ
その2 在満鮮部隊
1、現に満州、朝鮮に駐屯する兵力たる 偵察5中隊、戦闘13中隊、軽爆7中隊、重爆9中隊 計34中隊及び之に伴う航空地区部隊等に対し、今次の改編に於いては 偵察12中隊、戦闘21中隊、軽爆21中隊、重爆12中隊 計66中隊及びこれに伴う航空地区部隊等と為し、兵力に於いて32中隊及び之に伴う航空地区部隊等を増加す
2、満州及び朝鮮に在る陸軍航空部隊(野戦航空厰4個、奉天航空補給厰、白城子陸軍飛行学校を除く)は航空兵団に編合して関東軍司令官に、奉天航空補給厰は陸軍航空本厰に、白城子陸軍飛行学校は陸軍航空総監に隷せしむ
野戦航空厰4個は関東軍司令官に直隷せしむ
諸部隊の編成又は編制改正の概要次の如し
1.航空兵団司令部
現に支那に在る航空兵団司令部の人員を減少して満州に移駐す
2.飛行戦隊
飛行第1戦隊を満州に派遣し且つ編成を改正して3中隊編成に増強す
飛行第28、第29、第32戦隊を新たに編成す
飛行第27、第31、第45、第64、第77、第98戦隊を支那より満州に移駐し、且つ2中隊編制のものは3中隊編制に増強す
飛行第6、第9乃至第11第24、第65戦隊を編制改正して各3中隊、飛行第10戦隊は4中隊編制と為す
3.航空地区部隊
第2、第12航空地区司令部を新たに編成す
第21飛行場大隊を満州に派遣す
第23、第26、第30、第37、第39飛行場大隊を新たに編成す
第40、第93、第94、第97飛行所大隊を支那より満州に移駐す
第17、第18、第20、第46、第48、第51、第53飛行場大隊を編制を改正して各整備2中隊、警備1中隊、第53飛行場大隊は整備3中隊、警備1中隊編制に増強す
4.その他の部隊
航空通信第2聯隊、第3航空情報聯隊を新たに編成して予想作戦地における航空通信情報勤務部隊を整備し、以て航空部隊機動力の充実を期す
第1、第2航空情報聯隊を編制改正し、航空情報隊編制中に、航空航法に関する地上の勤務に任ずべき中隊を創設す
白城子陸軍飛行学校を新に編成し、航法又は航法勤務に関する学術の教育、研究を行はしめ航空部隊の航法能力の発達を図る、該学校は陸軍航空総監に隷せしむ
奉天航空補給厰を新たに編成し航空資材補給に関する中央直系機関として在満野戦航空厰に対する資材の供給を円滑ならしむる。該補給厰は陸軍航空本厰長に隷せしむ
第8、第9、第12野戦航空厰を増強す
その3 在支部隊
1、現に支那に在る兵力たる 偵察3中隊、戦闘6中隊、軽爆11中隊、重爆5中隊 計25中隊及び之に伴う航空地区部隊等に対し今次の改編に於いては、偵察6中隊、戦闘4中隊、軽爆4中隊、重爆3中隊 、(1中隊12機計36機とし、現編制による重爆6中隊分とす)計17中隊と為し、兵力に於いて8中隊及び之に伴う航空地区部隊を減す
各部隊の編制は在支航空兵力の減少に関聯し爾後に於ける作戦実施に応ずる如く独立飛行中隊を増加し,又特に進攻作戦に任ずる部隊の戦力を充実せんか為本年初頭航空兵団の実施せる蘭州、重慶攻撃の実績に基き飛行第60戦隊を現編制の概ね3倍と為し、戦隊長を核心とする鞏固なる挺進編隊群を編成せしむ、その概要次の如し
1、飛行集団司令部
第3飛行集団司令部を新たに編成す
2、飛行団司令部
第4飛行団司令部を台湾に帰還せしむ
3、飛行戦隊及び独立飛行中隊
飛行第44戦隊及び独立飛行第82乃至第84中隊を新たに編成す
飛行第60戦隊を編制改正して1中隊12機編制の3中隊 計36機編制に増強す
独立飛行第10中隊を編制改正して飛行場中隊の要員を分離す
独立飛行第18中隊を廃止してその人員は飛行第44戦隊に編合す
4、航空地区部隊
第67乃至第69、第85、第86、第88飛行場中隊を新たに編成す
第1野戦飛行場設定隊を廃止す
その4 在内地、台湾部隊
1、現に内地及び台湾に駐屯する兵力たる 偵察2中隊、戦闘4中隊、軽爆2中隊、重爆3中隊、超重1中隊,計12中隊及び練習部7個に対し、今次の改編に於いては戦闘3中隊、軽爆1中隊、重爆4中隊 計8中隊及び練習部10個と為し、兵力に於いて4中隊を減し、練習部3個を増加す
各部隊の編制は将来の航空兵力拡張に応ずる人員養成に適合することを本旨として改編し内地(北海道を除く)に駐屯する部隊は防空戦闘中隊の外全練習部とす、その概要差の如し
1、 第1飛行集団司令部
隷下軍隊統率に適する如く之を岐阜に転営せしむ
2、 飛行戦隊
飛行第62戦隊を新たに編成し北海道に駐屯せしむ
飛行第2乃至第5、第7、第13、第14戦隊を編制改正して努めて各戦隊内の文科を単一にしもって統率教育を簡単且つ容易ならしむ
3、航空教育隊
第1、第4、第5航空教育隊を改編し、各4中隊編制と為す
御説明終わり
(2011/5/16一部追加、訂正)
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